命がけのやきもの

「ねぇ、お父さん。ハリー・ポッターのご先祖様は陶芸家だったよ!」
ちょっと興奮した私は、ひとしきりお父さんにしゃべりました。

「ねっ?魔法使いのつくるやきものってどんなのかな」
ちょっと考えて、お父さんは答えました。
「魔法じゃないけど、ヨーロッパで最初に磁器を造ったのは錬金術師と言われているよ。」
「錬金術師?ニコラス・フラメルだっ!」
フラメルはハリー・ポッターにも出てくる錬金術師です。
「マイセンでベットガーという人が最初に磁器をつくたんだ。錬金術師だったとされている」
お父さんは、ちょっと声を落として話しました。
「アウグスト一世の命令をとげて、ベットガーは37歳で死んだんだよ。」
「37歳?若すぎっ!フラメルは賢者の石で不死の力を持っていたのに」
驚いたのと、少しゾッとして、私まで声が低くなりました。
「皇帝の命令は命がけだったのさ。中国では辰砂(紅い釉の磁器)を焼くために、窯に身を投げて自殺したんだよ。」
「そうなんだ・・・日本ではそんなことなくてよかったの?」
「そうだね。でも三川内でも、献上品を焼く御用窯の窯焚きは、長生きできなかった。」
「え?どうして?過酷だったから?」
「いや。待遇はよかったんだよ。重要な役割だから賃金も高くて、窯焚きのときは酒に肴までふるまわれたんだよ」
「じゃあ、プレッシャーとかストレスで?」
「そうだろうね。不窯(ふがま・焼き上がりが悪いこと)だったら窯焚きの責任だからね。それまでの製作がすべて台無しだ」

命がけのやきものなんだ。魔法をかけるなんて簡単なものじゃない。
ううん。魔法も命がけなんだ。命がけだから魔法なんだ。
私はそう思いました。

「三川内やきもの語り」は
三川内皿山生まれの少女 釉子が語る
やきもの小説です

 


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