今日はバレンタインのチョコを作りに、親友の沙夜の家に行きました。といっても、小道をはさんだお隣なのですが。
この家の裏手には、沙夜のおじいさんの徳さんの細工場(ロクロでやきものの生地を作る作業場)があります。私はここの細工場が好きで、よく窓から覗きこみます。
徳さんがロクロをまわして、土の塊から器が生まれていく(そんな風に思えるのです)のが見えたり、大きな水槽の中の金魚たちを見たり。そう、この季節には、楽しみなのが、徳さんが丹精込めて世話しているシクラメンです。毎年大振りの花が咲くのは、愛情がたっぷり注がれているからです。
今日は細工場には誰もいなくて、静かな小屋の中には、鮮やかなシクラメンが幾鉢も並んでいるだけでした。
「釉子?来てるの?早くはじめようよ!」沙夜の声が背中ごしに聞こえてきます。
沙耶はお菓子作りが好きで、よく2人で一緒に作ります。今日はクランチとナッツのチョコと、粉砂糖を振ったトリュフを作りました。
「やあ、いい香りだねぇ」ドアを開けて、徳さんと沙夜のお兄さんの潤が入ってきました。おじいさんに挨拶をしようとする私の手元からシュッとクランチチョコを取り上げると、あっという間に口に放り込んで「受験生は脳に糖分が必要なのさっ」と言いながら、潤はドアから2階への階段までダッシュしていってしまいました。